1 歴史
我が国で製造物責任法の立法化が本格的に議論されはじめた1980年代後半、実際の欠陥製品事故事件の経験から法案のあり方が議論されるべきなのに、学者らの机上の議論や、立法化を歓迎しない産業界の声ばかりが大きかった。このことに危惧感を抱き、大阪、名古屋の弁護士らの動きと連動して、1991年、東京に欠陥製品事故事件の実践部隊を結成した。これが東京PL弁護団である。
メンバーは、薬害スモン、カビキラー等のPL事件を経験している弁護士、弁護士会の消費者委員会で海外PL調査を経験している弁護士らに、新人弁護士の大量参加を得て発足した。その後、出入りはあったものの、常時10人余の集団として活動している。
さらに、東京PL弁護団の特徴は、技術の専門家とも連携をとっていることである。毎月の弁護団会議は、弁護士、技術士、電気管理士ら合同で開催し、全ての案件を一緒に議論して、一つ一つの事件の解決をはかっている。
また、こうした中で取り扱った事件の経験を、我が国の製造物責任法の立法運動に反映させるべく、講演、執筆、出版等の活動を展開した。「消費者のための製造物責任の本」(中村、田島、米川著、日本評論社)、「わかりやすい製造物責任法」(加藤、中村著、有斐閣)、「実践PL法」(日本弁護士連合会編、有斐閣刊)などが我々が執筆に関与して世に出た。1995年の立法成立後も、残された課題の前進を目指して引き続きPL法改正等の発言を今も継続している。
2 担当した事件
弁護団結成以来の10年余に担当した主な事件は、1事件当たり2,3名のチームを組んで、常時複数の事件の解決に奔走している。この間、敗訴は3件のみ、他はすべて勝訴または勝訴的和解である。
その時々の成果は、毎年「消費者リレー報告会」、「欠陥商品被害救済全国協議会(略称PL協議会)」、「PLオンブズ会議」で報告されている。
なお、判例上も注目を集めた「冷凍庫発火事件」については、「冷凍庫が火を噴いたーーメーカー敗訴のPL訴訟」(花伝社刊)を出版した。
3 弁護団の活動
PL事件は、事故の製品起因性、欠陥、被害・損害の立証が非常に重要な事件である。しかし、火災事故等によって、通常は証拠がかなり失われたり損傷しているために、立証に困難をともなう。事故発生の相談を受けたら、とにかく直ぐ動くことが大切である。多数の事件の経験をもとに、目下、PL事件の初動調査マニュアルの作成を検討中である。
また、全て初対面の、突然の被害を受けた相談者・依頼者との対応の仕方も、多数の経験から工夫がみられ、「当事者学」の議論もしている。
公設事務所所属新人の当弁護団への加入・育成は、全国に「PL弁護団」のノウハウと情報ネットが広がるチャンスでもあるので、積極的に行っている。
当弁護団へのニーズは、直接の相談者・被害者からばかりではない。相談を受けた消費者団体、相談を受けて難渋している弁護士や、セカンドオピニオンを求める被害者自身からの問い合わせもある。これらにも可能なアドバイスや援助をしている。
今や、PL弁護団は、社会的存在として認知されつつあるのかもしれない。
代表弁護士 中 村 雅 人